高松高等裁判所 昭和40年(う)115号 判決 1965年9月21日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役二月に処する。
被告人の本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
検察官の控訴趣意第一点について。
論旨は、要するに、原判決は、法令の適用を誤り、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れないというのである。
そして、原判決は、所論のように、本件各罪を刑法第四五条前段の併合罪とし、刑法第二一一条の所定刑中禁錮刑を、(現行)道路交通法第一一七条及び同法第一一九条第一項の所定刑中いずれも懲役刑を選択し、刑法第四七条、第一〇条を適用して併合罪の加重をしたのであるが、そのばあい同法第一〇条、第九条によれば右一一七条所定の三年以下の懲役刑が最も重いのであるから、同条違反罪の刑につき加重して被告人を懲役刑に処すべきであるのに、刑法第二一一条前段の罪の刑につき加重した結果、被告人を禁錮刑に処するに至つたものと解せられ、右の併合罪加重に関する法令の適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。それ故論旨は理由がある。
弁護人の控訴趣意及び検察官の控訴趣意第二点について。
論旨は、いずれも、量刑不当の主張であり、弁護人の論旨は、被告人を罰金刑に処するか、懲役刑に処するにしてもその執行を猶予するのが相当である、というものと解せられ、検察官の論旨は、被告人を懲役刑に処するばあい、原判決程度の刑期は短かすぎる、というものと解せられる。
ところで本件の被害者梶賢吾は、警笛を鳴らし徐行しながら道路の左端寄りを進行し、被告人より先に交差点に進入したところ、被告人は、酒気を帯びて自動車を運転し、少しも警戒することなく右道路の右端から交差点へ直進したため自車を右被害者の原動機付自転車に衝突させた結果本件事故を惹起したものであつて、本件業務上過失致傷罪につき、被告人の過失は重大であるのに対し、被害者側には殆んど責められるべき点がないこと、被害者は二名であり、特に右賢吾の負傷は重症であつたこと、被告人は、思慮分別の熟すべき年令であり、かつ、相当の社会的地位を有するにも拘らず、本件のいわゆる轢き逃げの各犯行を犯したものであること、被告人の被害者らに対する慰藉も不充分であることなど、記録に現われた諸般の情状を考量すると、被告人を、罰金刑に処し、または自由刑の執行を猶予することは、いずれも、相当でなく、懲役刑に処するばあいにも原判決程度の刑期は短かすぎると認めるので、弁護人の論旨は理由がなく、検察官の論旨は首肯することができる。
そこで、刑訴法第三九七条、第三八〇条に従つて原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従つて更に判決することとし、同法第三九六条に従い被告人の控訴を棄却する。
原判決の確定した事実に法令を適用すると、業務上過失致傷の点は刑法第二一一条前段罰金等臨時措置法第二条、第三条に、救護の措置をとらなかつた点は道路交通法第一一七条、第七二条第一項、右措置法第二条に、警察官に報告しなかつた点は同法第一一九条第一項第一〇号、第七二条第一項、右措置法条に、それぞれ該当するところ、業務上過失致傷は刑法第五四条第一項前段のばあいであるから、同法第一〇条により犯情の重い梶賢吾に対する罪の刑をもつて処断することとし、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、業務上過失致傷罪の所定刑中禁錮刑を、各道路交通法違反罪の所定刑中いずれも懲役刑を選択し、刑法第四七条本文、第一〇条、第九条により最も重い道路交通法第一一七条の罪の刑につき併合罪の加重をした刑期範囲内で、被告人を懲役二月に処し、刑訴法第一八一条第一項本文により当審における訴訟費用の全部を被告人に負担させる。
よつて、主文のとおり判決する。(横江文幹 東民夫 梨岡輝彦)